レポートTOP

○「まちづくりへの市民参画」について                      長野県飯山市

 

1.飯山市のまちづくりへの市民参画の概要

 飯山市は長野市からJRローカル線に揺られること40分余り。そこから先はもう新潟県という、長野県の最北に位置する、人口26000人足らずの市。
 一般に、私たちが視察に行かせてもらうに当たり、視察先が丸亀市とあまりに人口規模の違う市は、参考にならないだろうと考えます。たとえばハコ物と呼ばれるハード面の整備や、産業構造のまったく異なる仕組みを持つ市での取り組みなどはその例と言えます。しかし「まちづくりへの市民参画」というテーマの下では、自治体規模の大小を問わず、その熱心な取り組みは参考になります。ここで展開されている「全市公園化計画」という名のプロジェクトは、そのタイトルに触れただけでも魅力を感じ、それを市民参画のもとで展開していると聞けば、たちまち今の丸亀市でそっくり実現はできないとしても、どのように市民に働きかけ、市役所がそれに応じていくのか、そういった点を学ぶ意義は大きいと考えました。
 単に市役所が税金で市内をきれいにしている、草花を植えている、というだけなら、長野の奥地まで訪れる必要はなく、魅力も感じません。「全市公園化」という発想のそもそもに、市民との協働というコンセプトが横たわっていることを、これからご紹介したいと思います。

 

2.「全市公園化計画」

 長野オリンピックを迎える前から、市民の中に景観に対する意識の芽生えがあり、昭和62年、市長が地域に出向いて懇談を持つようになった。

 ○まずは植栽と掃除を呼びかける運動から始まった。市と市民が協定を締結するという形が徐々に定着するようになった。

 ○63年、フラワーロード植栽開始。後述。

 ○平成3年、「いいやま記念の森」事業開始。後述。

 ○5年、沿道景観維持のための指導要綱を制定、看板規制を行う。
 →全国どこにでも見られるコンビニ、ファミリーレストランの画一的な看板についても、その本部と直接交渉をして、高さの低い、またはサイズの小さいものにしてもらえるよう要請、これが実現している。これまでに100件以上、撤去、高さや表示面積の修正を実現。

 ○6年から2年毎に「景観シンポジウム」を開催。

 ○7年「いいやま百景」パンフを発行。

 ○8年、「全市公園化構想」を策定。コミュニティ主導での構想。同時に「いいやま景観賞」を制定。後述。

 ○8〜12年、寺のまち・街並み整備事業を展開。
 →飯山市は「寺のまち」。古い歴史を誇る愛宕町の寺町を観光資源として整備。

 ○12年、「飯山市景観形成推進協議会」を設置。本格的な市民参画始まる。
 →市民、団体、学識経験者で構成。「景観賞」の選考も勤める。

 ○14年「風景づくりの歩み」策定
 →「全市公園化」における市民活動の位置づけをまとめる。

 ○同年「風景づくりを語ろう」策定
 →公共景観ガイドラインが出来上がる。

 ○同年、寺町を舞台に「花フェスタ・寺町花街道」がスタート。
 →この年が「協働のまちづくり」元年といえる。

 ○15年、新観光戦略「ウェルカムプラン」を策定。H26北陸新幹線の整備により、これからの観光戦略が必要となったことを受けて。



レポートTOP

3.景観形成住民協定の推進ほか、市民の参画

 ここでは「全市公園化計画」の一環としての市民の参画に焦点を当てて紹介する。

 ○景観形成住民協定

  県景観条例にもとづく住民との協定を推進。
  1ha若しくは30戸以上の土地、又は100m以上の沿道を対象。
  建物の色彩、形態について定められていることが条件。
  対象住民の2/3以上が合意していること。
  これまでにしない6地区が協定締結した。

 ○いいやま景観賞

  市民の景観への意識を向上。建築、緑化、創作の3部門。
  16年度までに41件の表彰。

 ○フラワーロード

  千曲川沿道を花で飾る。4.3kmの堤防を「コスモスロード」に。その他合計10km、46団体が参加。
  花苗の植栽や草取り等の管理を市民が、植栽準備や水遣りを行政が行う。
  1団体2万円上限、現金又は現物支給。この運動のために園芸指導員(嘱託)1名雇用。飛び回っている。
  公園作業員8名、シルバーから雇用。
  予算H17、793万円。賃金含む。

 ○いいやま記念の森事業

  サクラをメインとして、オーナー制度による森の造成。
  1本2万円を市民が負担、樹木の維持管理は市が担当。
  これまでに1496本を植樹。

 ○その他

  花を生かしたイベントの開催として、「菜の花まつり」に9.3万人の動員。
  「朧月夜音楽祭」。昔から仏壇の町として栄えたことから、仏壇製作の過程
  でできる廃漆樽を利用して商店街沿いにプランター、「寺町花街道」では300mの通りを歩行者天国にして賑わいを創出、など。

  表彰・受賞暦

  ・全国「遊歩百選」(読売新聞社)

  ・国土交通大臣表彰「美しいまちなみ大賞」

  ・国土交通大臣表彰「全国花のまちづくり大賞」

  ・国土交通大臣表彰「みどりの愛護功労者」ほか。


レポートTOP

4.感想

 前記、「みどりの愛護功労者」に選ばれたのは、昭和57年から活動を続けている「菜の花咲かせる会」という市民団体でした。
 こうした地道な市民の運動に着目し、市がそれらとタイアップし、これからはそれらに一定の助成を行うというにとどまらず、まさしく「市民とのパートナーシップ」の核として位置づけ、共に展開するという姿勢と仕組みが必要です。
 さて、私ども視察一行は午前には飯山市に到着。午後からの視察時刻までを利用し、駅案内でレンタサイクルを借り、あらかじめ調べておいた、先ほど紹介の「寺まち」や仏壇のまちを散策させてもらいました。そして昼食の後、私たちは「自転車で」、市役所に乗り込むこととなりました。
 冬の季節には大変な積雪とのこと。そのため通りの設計は非常に幅広く、違法駐車もなければごみも落ちていない、その光景はさっぱりしすぎてむしろ殺風景なくらいの印象です。街を自転車で走りながら、「それにしても、ごみが落ちてないな」と、語り合ったものでした。
 市役所での説明をお聞きした後、車で案内をいただき、ひととおり、フラワーロードや菜の花公園、そして市民による植樹で森を形作っている運動公園などを見せていただきました。訪問した10月上旬、黒土の畑には青々としてみずみずしい野沢菜が広がり、「朧月夜音楽祭」の会場になると説明を受けた菜の花公園の高台からは遠く千曲川が蛇行し、輝いているのが臨まれました。
 また折りしもコスモスの花盛りで、国道沿いのフラワーロードは背の高い白とピンクの花々で、どこまでも飾られていました。
 運動公園の市民の森はまことに整然と計画的に植樹がなされ、枯らせることなく育てられた一本一本の樹木が豊かな森を形成して、そのひとつひとつに、「出版記念」とか「ベビー○○君誕生」とか、思い思いの表示がかけられていました。
 言うまでもなく、長野といえば豊かな田園と山々を舞台としているところですから、今さら市民の手によって景観を、ということ自体が疑問に思われるかも知れません。そのまま放置しておいても、それは確かに、豊かな緑の真っ只中にあるところです。
 けれども、市民の努力がそれを損なうことなく、また仏壇産業、寺の歴史などを巧みに取り込んでにぎわいを創りあげている、そこに、昭和50年代から地道に取り組んで来られた市民運動が見事に開花している、それは自然の作り上げた景観以上に、見ごたえのあるものではないかと思いました。
 振り返って丸亀市では、かつて「緑の三倍増計画」というものが提唱されていて、その題目はすごいものでありました。しかしながら継続性、発展性、そしてその計画に誰が乗り、誰が責任を問うのか、という面で不備があり、今では有名無実となっているのが現状でしょう。
 12月議会も終わりましたが、今議会は全国で子どもが不幸な連れ去り、殺害という被害に遭う、いたましい事件が語られる中で開催されました。
 コミュニティを挙げての見守りパトロール、安全マップづくり運動が展開される中で、たとえば「ここに防犯灯を」「ここにガードレールを」という市民の要望が出されたときに、「それは生活課の仕事です」「それは建設課の仕事です」と、新たな発想や戦略を持とうとしない市役所ならば、相も変らぬ「お役所」ということに止まり、市民はすっかり失望してしまうだろう、そのような趣旨のことを私は申し述べました。
 今議会では同時に「まちづくり推進課」や「市民なんでも相談窓口」の設置という、私の持論を重ねて主張しましたが、この事例で言えば、そこに防犯灯を設置するということをまさしく「まちづくり推進課」が引き受け、プロジェクトし、生活課なり、建設課と交渉を重ねてもらう、そういうシステムであってこそ、「市民のための市役所」と評価されることでしょう。
 今回の視察を通じて、私どもはさらに、意を強くしました。
 こうして千曲川沿道がコスモスでまばゆく飾られているのは、自然がなした業ではない。それは市役所の仕掛けと、市民の汗がなさしめた景観であり、そして高台から見下ろす、水面輝く千曲川の光景も、こうして野沢菜や菜の花植樹の人の営みがあってこその美しさなのだということ。助成金やハコ物建設から一歩高められた、これからの市政の運営が丸亀市でも早く、始められなければならない、そのように痛感しました。
 視察をさせていただいて、これをこうしてレポートにまとめる作業を通じて自分の中で再度咀嚼し、そして機会あるたびにこれを人々に語っていく、それであってこそ、視察の意義もあると、常々私どもは考えています。
 このレポートが、拙きながら、一人でも多くの市民の方々の目に触れ、参考にしていただけることを、いまの時代だからこそ特に強く願いつつ、稿を擱きたいと思います。



レポートTOP